雪の降る道を猫は走り続けていた。小さな体のどこにそんなエネルギーがあったのだろうか、ほとんど飲まず食わずの上休みもしなかった。
今はなき親友との約束を口にくわえ、ただひたすら走り続けた。
「うわっ、見ろよアレ!」
「気持ちワリ~!化け猫だ!」
「悪魔め、コレでも喰らえ!」
通りがかった街では子供達が石を投げつけた。
その内の一つが猫の頭に当たった。
一瞬足元をよろめかせながらも踏みとどまる。
血が滲んできて地面へと滴り落ちた。
「フーッ!」
「わーっ、悪魔に呪われるー!」
「お兄ちゃん、待ってー!」
子供達をにらみつけると一目散に逃げ出していった。
(フン、アクマカ。)
しばらく去っていった方をにらみつけていたが、やがてまた走り出す。
(ナントデモヨベバイイサ。オレニハナマエガチャントアル。)
走りながら絵描きのことを思い出す。
「ほら、ホーリーナイト、また一枚描けたぞ!」
「おふぁよー、ホーリーナイト。ふぁ~あ。」
「ホーリーナイトは聖なる夜って意味さ。」
「ホーリーナイトー、ご飯だぞー!」
「おいでホーリーナイト、くっついて寝よう。」
耳に残っているのは優しく温かい声ばかりだった。
(カナラズ、トドケテヤル。)
数日後、猫はついに親友の故郷にたどり着いた。
目指す家まではもう数キロだった。
ここに来るまで決して楽な道のりではなかった。
見かける人間は彼を気味悪がった。
犬に襲われたりもした。
猛吹雪で道を見失いそうにもなった。
体は既にボロボロだった。
だが彼はここまで来た。
(モウスコシダ。)
少しふらつく足取りで道を渡る。
目的の場所に近づき気が緩んだのだろうか、周りに対する警戒心が少し薄れていた。
気づいた時には遅かった。
響き渡る甲高いブレーキ音。
間を置かず鈍い衝撃音が聞こえた。
「あーあ、やっちまった。」
車から若い男が出てきてぼやいている。
猫は道の真ん中でグッタリしていた。
「クソッ、バンパーに傷がついちまったじゃねえかバカ猫がぁっ!」
男は猫に近づくとツバを吐きかけた。
「ねーえ、早くしてよお。」
車の中から女が呼びかける。
「おう、今行く。」
男は車を出すと、まだ腹の虫がおさまらないのか猫の横を通り過ぎる時に缶コーヒーを投げつけて去っていった。
猫はその場で動けずにいた。
(モウ、ムリカナ。)
雪が容赦なく黒い猫の体を白く染めていく。
(ドウセ、トドケテモ、コワガラレルダケダ。)
猫はそこで旅を終えようとしていた。
その時、強い風が吹き手紙を飛ばそうとした。
無意識に手紙を強くくわえ、風にあらがう。
手紙が少し曲がり、視界には親友の書いた字が映る。
(フザケルナ!)
猫はよろよろと立ち上がった。
(キラワレモノノオレニモ、イミガアルノナラ...。)
足を一歩前に進める。
(コノヒノタメニ、ウマレテキタンダロウ。)
また一歩足を進める。
(アイツハヤサシサヲ、オシエテクレタ。)
もう一歩進むつもりが、地面に崩れてしまう。
足が一本ちぎれかけていた。
(ダッタラオレハ・・・。)
力を振り絞り立ち上がる。
(ドコマデモハシッテヤル!)
壊れた体を引きずるようにして猫は走った。
走り、転び、また走った。
(マケルカ、オレハホーリーナイトダ!)
猫はついにその家を見つけた。
ドアにへばりつくとガリガリ引っ掻きながら鳴いた。
やがて中から絵描きの恋人が姿を現した。
「・・・・・!どうしたの猫ちゃん、傷だらけじゃない!」
猫は口にくわえた手紙を突き出した。
「コレを・・・?アタシに?」
躊躇する恋人になおも手紙を突き出す。
「分かったわ、読めばいいのね。」
手紙を読んだ恋人の目からは大粒の涙がとめどなく溢れた。
「ありがとう。届けてくれてありがとう。」
そう言って頭を撫でてやるとホーリーナイトは一際高い声で誇らしげに鳴いた。
「ニャー!」
そしてそのまま満足そうに目を閉じた。
恋人は何度も何度も繰り返しながら、もう動かなくなった猫の頭を撫で続けた。
「ありがとう。ありがとう。ありがとう・・・。」
数日後、恋人の家の庭の一角に小さな墓が建てられた。
そこには画家のイニシャルのKを加えて、こう記されていた。
『聖なる騎士、HolyKnightここに眠る』
(完)
原作
BUMP OF CHICKEN
「K」
アルバム「リビングデッド」収録
(コメントのテスト)
それにしても懐かしいねぇ(^ ^)