短編集の最近のブログ記事

SENTIMENTAL CHRISTMAS

| コメント(0) | トラックバック(0)
1110899365.jpg今日はクリスマス。
街は浮かれているが俺は一人陰鬱な顔をして歩いていた。
俺の職業は新聞記者。
いや新聞記者だった。
数日前に俺は特ダネを物にした。
ある政治家とマフィアの癒着を白日の下にさらした。
だがそれがいけなかった。
「ねえパパ、こんな記事書いたら危なくない?」
「心配するなサラ。俺が命を落とせば誰がやったかは明白だ。奴らもバカじゃないさ。」
現実は自身の死よりもっと残酷な物だった。
報復としてたった一人の家族である娘の命を奪われた。
巧妙に事故に見せかけていたため警察も動いてはくれなかった。
恐らく警察幹部らにも手が廻っていたのだろう。
娘は俺へのクリスマスプレゼントを買いに行った帰りに殺された。
その手にはしっかりと俺へのプレゼントが握り締められていたそうだ。
死体安置所で遺品を受け取る時にプレゼントを開いた。
ペンダントだった。
そしてメッセージカード。
『パパへ。パパのお仕事は忙しいし危ない目にもあうから心配です。だからこのペンダントを送ります。幸運のお守りなんだって。これ持ってればママより素敵な人に出会えるかもね。いつもワガママ言って困らせてゴメンね。大好きなパパへ。サラ。』
俺にはもう何も残ってはいなかった。
「いや一つだけ残っているさ。復讐だ。」
そうつぶやくと俺は足早に人ごみの中に消えていった。

それからちょうど一年後のクリスマスイブ。
この日をどれほど待ち焦がれたか。
やつらは一堂に会してパーティーをしていた。
屋敷のそばに車を停めバカ騒ぎが終わるのを待つ。
関係ない人間は極力巻き込みたくない。
雪が降ってきた。
明日はホワイトクリスマスになりそうだ。
午前零時。
どうやら終わったらしい。
女達や下っ端の連中が帰っていくのを見計らって屋敷へ向かう。
門のところで止められる。
「オッサン、何の用だ?」
短く銃声が二発。
後にはチンピラが2人転がっている。
屋敷に入ると一斉に銃口が火を噴いた。
床を転がりながら壁に身を隠す。
さすがに人数が多い。
「感心してる場合じゃないか。」
だが一年もの間戦場に身をおいていた俺にとってこんな状況を抜けるのはたやすい事だった。
ポケットから手榴弾を取り出し放り投げる。
そして敵が怯んだ隙に一人ずつ確実にしとめる。
マフィア相手ならこれの繰り返しで充分だった。
数分後、まだ息のある連中に確実に止めを刺し目的地に向かう。
書斎の前に着いた。
扉を開けるとそこには例の政治家がいた。
「まさかここまでたどり着けるとはな。」
部屋の中に入り黙ってにらみつける。
「オマエ一体何者だ?」
「忘れたのか?随分冷たいんだな。俺は貴様の顔を片時も忘れなかったぜ。そこでコソコソしてる奴の顔もな!」
そう言いざまに扉の影に銃弾を二発撃ち込む。
扉が傾きマフィアのボスが床に倒れこむ。
手にはしっかりと拳銃を握り締めていた。
「な、なんだ?目的は金か?金ならいくらでも...。」
「ホントに覚えてないんだな。なら思い出させてやる。一年前のアメリカン・タイムスの記事と言えば分かるだろう!」
老人の目がしばらく中空をさまよった後、俺の顔に焦点を合わせる。
「そうか、あの記事の...。」
「思い出したようだな。」
「た、頼む何でもするから命だけは...。そうだ、金だ!いくらでもやるぞ!」
そう言って机の上の小切手に金額を書き込む。
俺は黙って見つめる。
「ま、まだ足りんか?ならこれでどうだ?」
更にゼロを加えた金額を書いたところで右手を撃ち抜く。
「ヒ・ヒーッ!殺さんでくれ!命だけは、命だけは!」
「俺の娘、サラは命乞いする暇も無かった。」
「・・・・・。」
「サンタからのプレゼントだ、ありがたく受け取れ。メリークリスマス!」

目的を達した俺は当ても無く街を歩いていた。
街角でキスするカップル。
大声でクリスマス・ソングを歌う酔っぱらい。
全てが遠い世界に感じる。
「これでもうホントに何も無くなったな。」
気がつくと随分人通りの少ないところまで来ていた。
「ダウンタウンか。ここじゃクリスマスもあまり関係なさそうだな。今の俺と一緒だ。」
少し歩きつかれた俺は路地の壁にもたれた。
ポケットからタバコを取り出し火をつける。
その時数発の銃声が俺の周りを包んだ。
壁を背にズルズルと崩れ落ちる。
男が三人駆け寄ってきて俺のポケットを探る。
「ヘイ、こいつ財布も持ってやがらねえぜ!」
「腕時計も安物だ!ハズレだな。だからこいつはよそうって言ったじゃねえかベン。」
「うるせえなゴーシュ!次行こうぜ、次!ベアー、急げ。」
男達はさっさと走り去る。
全身に弾を浴びていた。
血がとめどなく溢れてくる。
「これで終わりか。まあ『らしい』終わり方だな。」
壁にもたれながら静かに最期の時を待つ。
目を閉じて顔に降りかかる雪を感じる。

どれくらいの時間が経ったのだろう。
サクッサクッサクッ。
雪を踏みしめ誰かが近づいてくる。
「お迎えが来たか。最近の天使は歩いてくるんだな。」
うっすら目を開けると小さな女の子だった。
「おじちゃんサンタさん?」
「どうしてそう思う?」
「だっておじちゃんのお洋服真っ赤なんですもの。ねえサンタさんでしょ?サンタさんでしょ?」
「ああ、そうだよ。」
「ワーイワーイ、サンタさんだ!ねえねえプレゼントは?」
「プレゼントか。もう全部配っちゃったのさ。」
「えー、そんなのやだー。」
女の子がイヤイヤをする。
そのそぶりが幼い頃のサラに似ている。
何か無いかとポケットを探ってみるが何も無い。
「そうだ、とっておきのが残ってたよ。」
「なになに?」
ノロノロと腕を動かしペンダントを外す。
すでに指先の感覚は無い。
「ホラ綺麗だろう。これは幸運のお守りなんだ。」
「うわぁ~、キレー。」
「これを持ってればいつか素敵な人と出会えるよ。」
「ステキな人?」
「ハハッ、サラにはちょっと早いか。」
「サラ?あたしジェニファーよ。よく分かんないけど、ありがとうサンタさん!メリークリスマス!」
「ああ、メリークリスマス。」
女の子は来た道を駆け戻っていった。
雪はまだ降り続いている。
「雪って暖かいんだな...。」
静かに、ただ静かに雪だけが名も無いサンタクロースの上に降りそそいでいった。

(終)

哀しきヒットマン

| コメント(0)
 
1111269780.jpgその日俺はいつものように疲れた足を引きずるようにして部屋に帰ってきた。
ドアを開けるとそこには客が来ていた。
客と言っても別に呼んだわけじゃない。
勝手に入ってきて俺を待ち構えていた。
「何だお前?」
努めて冷静な対応をする。
というのもこんな事はもう慣れっこだったからだ。
「・・・・・。」
そいつは黙ってこちらをにらみつけていた。
「そうかい、じゃあ問答無用だな!」
言うが早いか奴に一撃を加えた。
...はずだった。
奴は予想だにしない動きで攻撃をかわしていた。
俺は次々と攻撃を繰り出した。
だが、そのどれもがむなしく空を切るだけだった。
「クッ、チョコマカと逃げ回りやがって。」
だがこっちもバカじゃない。
次第に奴の動きに慣れてきた俺は徐々に部屋の隅に追い詰めた。
「お遊びは終わりだ。」
狙いすました渾身の一撃を脳天に叩き込んでやる。
数秒後、奴は息絶えていた。
だが俺には勝利の余韻も何も無かった。
そこにはただ荒涼とした虚しさだけが広がっていた。
「どうせこれで終わったわけじゃない。」
そう、これで終わりではない。
奴はまたやってくるだろう。
もしかしたらこっちがやられる日が来るかもしれない。
だが今はそんな事どうでも良かった。
グラスにバーボンを注ぎ、一息にあおる。
俺はただ眠りたかった。
やがて訪れるかもしれない戦いの終わりを夢見ながら...。
続けざまにもう一杯を空っぽの胃に流し込む。
頭の片隅でどこかで聞いた言葉がリフレインされていた。



「一匹見たら三十匹は居ると思え。」

このアーカイブについて

このページには、過去に書かれたブログ記事のうち短編集カテゴリに属しているものが含まれています。

前のカテゴリは宇宙の海は俺の海です。

次のカテゴリは雨とマーガレットです。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。

最近のコメント

アクセスカウンタ

    全部:
    今日:
    昨日: