2.駄文戯言

狼と羊。

俺は焦っていた。

遅刻しそうだ、ギリギリだ。
それなのになんだこの状況は?
六畳の部屋に朝っぱらからギュウギュウで朝食だ。

最悪だ。まさに最悪だ。

嫁さんのお母さんに嫁さんの妹に嫁さんの弟。
なんで皆揃って朝食なんだい?
なんで気づいたら同居しているんだい?
まぁ、そんなことはどぅだっていい。
俺はいま急いでいるんだよ。

朝メシなんか喉を通りやしない。
急がないと遅刻なんだよ。遅れちまうんだよ。
チャッチャと洗顔と歯磨きを済まし服を着替える。
ん?スーツを着ているぞ、俺。
もしかして今日は大事な仕事なんじゃないのか?
遅れたら大変なことになるんじゃないのか?

俺は焦っていた。

殺伐とした形相で玄関に向かう。
玄関には先客。
ノロノロと靴を履こうとしているチビ。
しばし待つが我慢ならず押し退けて靴を履く。
罪悪感に襲われながらも心此処に在らず。
遅れてしまう。遅れてしまう。
急がないと遅れてしまう。

やっと靴を履いて玄関ドアに手をかける。
なぜか一同で見守る家族たち。
玄関を開けると笑顔の男。
どうやら怪しい商法のセイルースマン。
完全に玄関前を陣取っている。
笑顔の男は勝手に話始める。
「・・・栄光への第一歩です」
「元本保証が我が社のモットーです」
「成功者の方々が山のように・・・」
「百萬預けて頂ければ一年で弐百萬に・・・」
「・・・正しい選択です」
「信頼してください」

プチっ

何かが俺の中ではじけ飛んだみたいだった。
突如、世界から音が無くなり静寂が訪れた。
しかし音の無い世界とは裏腹に
まるで俺は野獣のように奴に襲い掛かった。

気がつけば、奴の上に馬乗りになり
怒鳴り、喚き、威圧し、罵倒し、高揚している俺。
「本当なんだな!キサマ自分が言ったことの意味がわかってんだろうな!」
「自分の言っていることに100%責任を取るつもりで言ってるんだろぅな!」
「おいキサマ!絶対に自分が言ったことには責任とれよ!」

組み伏せられ、ただ呆然と口を開け、
まるで埴輪のような顔をしているセイルースマン。
同じように呆然と見つめている家族たち御一同。
まるで子羊と襲い掛かる狼のような
自分の姿にグリム童話のワンシーンを思い出したりする。

嫁さんを怒鳴りつけると、
どこからでもいいのでカネを借りに行かせる。
おもむろにポケットに手を入れケータイを取り出す。
友人、知人、同僚、上司、親類、先生、生徒、一回だけ会った人
手当たり次第にカネの無心を電話する。

どうやらトータルで一千萬円くらいは用意できそうなんだそうな。

まるで狼に魅入られた子羊のように静かなセイルースマン。
「キサマ!自分の言ったことを忘れるなよ!」
「お前の住所も電話番号も家族もなにもかも調べるからな!」
「絶対に死んででも倍にして返せよ!」
凍りついた顔の男を見下ろす自分。

こんな夢を先週みました。
どうやら疲れているようです。