俺は焦っていた。
遅刻しそうだ、ギリギリだ。
それなのになんだこの状況は?
六畳の部屋に朝っぱらからギュウギュウで朝食だ。
最悪だ。まさに最悪だ。
嫁さんのお母さんに嫁さんの妹に嫁さんの弟。
なんで皆揃って朝食なんだい?
なんで気づいたら同居しているんだい?
まぁ、そんなことはどぅだっていい。
俺はいま急いでいるんだよ。
朝メシなんか喉を通りやしない。
急がないと遅刻なんだよ。遅れちまうんだよ。
チャッチャと洗顔と歯磨きを済まし服を着替える。
ん?スーツを着ているぞ、俺。
もしかして今日は大事な仕事なんじゃないのか?
遅れたら大変なことになるんじゃないのか?
俺は焦っていた。
殺伐とした形相で玄関に向かう。
玄関には先客。
ノロノロと靴を履こうとしているチビ。
しばし待つが我慢ならず押し退けて靴を履く。
罪悪感に襲われながらも心此処に在らず。
遅れてしまう。遅れてしまう。
急がないと遅れてしまう。
やっと靴を履いて玄関ドアに手をかける。
なぜか一同で見守る家族たち。
玄関を開けると笑顔の男。
どうやら怪しい商法のセイルースマン。
完全に玄関前を陣取っている。
笑顔の男は勝手に話始める。
「・・・栄光への第一歩です」
「元本保証が我が社のモットーです」
「成功者の方々が山のように・・・」
「百萬預けて頂ければ一年で弐百萬に・・・」
「・・・正しい選択です」
「信頼してください」
プチっ
何かが俺の中ではじけ飛んだみたいだった。
突如、世界から音が無くなり静寂が訪れた。
しかし音の無い世界とは裏腹に
まるで俺は野獣のように奴に襲い掛かった。
気がつけば、奴の上に馬乗りになり
怒鳴り、喚き、威圧し、罵倒し、高揚している俺。
「本当なんだな!キサマ自分が言ったことの意味がわかってんだろうな!」
「自分の言っていることに100%責任を取るつもりで言ってるんだろぅな!」
「おいキサマ!絶対に自分が言ったことには責任とれよ!」
組み伏せられ、ただ呆然と口を開け、
まるで埴輪のような顔をしているセイルースマン。
同じように呆然と見つめている家族たち御一同。
まるで子羊と襲い掛かる狼のような
自分の姿にグリム童話のワンシーンを思い出したりする。
嫁さんを怒鳴りつけると、
どこからでもいいのでカネを借りに行かせる。
おもむろにポケットに手を入れケータイを取り出す。
友人、知人、同僚、上司、親類、先生、生徒、一回だけ会った人
手当たり次第にカネの無心を電話する。
どうやらトータルで一千萬円くらいは用意できそうなんだそうな。
まるで狼に魅入られた子羊のように静かなセイルースマン。
「キサマ!自分の言ったことを忘れるなよ!」
「お前の住所も電話番号も家族もなにもかも調べるからな!」
「絶対に死んででも倍にして返せよ!」
凍りついた顔の男を見下ろす自分。
こんな夢を先週みました。
どうやら疲れているようです。